論理・倫理・美学
精神医療と美容医療を横断し超えてゆくもの
精神医療と美容医療の双方にわたって診療を続けてゆくこと、これは他でもない医療そのものに対するひとつの姿勢を貫いてゆくことでもあります。そもそも人間にとって最も根源的な生きるための指標とは何か、と問うてみたとき、わたしたちは何と答えることができるでしょうか?
この問いについては、随分以前からわたしの答えは決まっていました。それは論理・倫理・美学 logique-ethique-esthetique なのだと。そして、さらなる問題は、このトリロジーの彼方に何が待っているのかということです。
かつて、フロイトはマリー・ボナパルトに次のように述懐したことがあります。「女性は本当は何を欲しているのか? Was will eine Frau eigentlich ?」。正式にはフロイトは次のように語っています。
「30年にわたって女性心理の探求をおこなったにもかかわらず、わたしが答えることができない大いなる疑問、それは”女性は本当は何を欲しているのか?”という疑問です。Die große Frage, die ich trotz meines dreißigjährigen Studiums der weiblichen Seele nicht zu beantworten vermag, lautet: "Was will eine Frau eigentlich?"」
わたしたちがより良く生きてゆくための指標は、例えばアリストテレスの『ニコマコス倫理学』に見出すことができるでしょう。そこで提示されている「最高善 τὸ ἄριστον」とは人類にとっての広義の「幸福 εὐδαιμονία」のことですが、それはやはり論理・倫理・美学に支えられているように見えます。
フロイトが疑問に思いつづけていたのは、おそらく、更にその先の次元ことだったに違いありません。女性は”本当は”何を欲しているのか?という疑問に答えることができたならば、わたしたちは論理・倫理・美学のトリロジーを超えてその先に向かうことができるかもしれません。
そのような考えを抱きつつ、足かけ10年間にわたる離島での診療生活に終止符を打ち、わたしはネパールに旅立ちました。ヒマラヤの大自然の中に身を置くことで、究極の答えが見出せるかも知れないと考えたのです。美しい湖畔の村ポカラから山中に入り、約1か月の間、標高4,000m超のヒマラヤ山中を移動しながら大自然から答えが返って来るのを待ちました。そして得られた啓示は「大自然のなかに身を置くように美容医療のなかに身を置いてみること」ということでした。
帰国してから、日本最大規模の美容外科に就職し、数年にわたる過酷なトレーニング生活を経て独立しました。そしてそれ以来、自らのクリニックで精神医療と美容医療の双方にわたって診療を継続してきました。そして還暦を超え、漸くわたしなりに「女性は”本当は”何を欲しているか?」という疑問に答えることができたと考えています。
それを踏まえ、今年は、論理・倫理・美学を超えるもの、超えたその先に見えてくるもの、その次元について、大学での授業、日常におけるセミネールやゼミで丁寧に説明してゆけたらと考えています。そして、この試みが上手くゆくことを願っています。
本年もよろしくお願い致します。
2022年 元旦 藤田博史拝