謹 賀 新 年  2 0 1 9
 
〈超自我〉新論
数回のセッションで薬なしで精神疾患を治癒させる技法
新年のご挨拶に代えて
   
 

  超自我は、周知のように、命令し、唆し、誘惑し、甘い言葉で囁いてくる見えざる不可思議な審級です。本年の公開セミネールではこの古くて新しい審級〈超自我〉が、実は精神疾患を治癒へ導くための秘密の鍵を握っていることを再発見し、〈超自我〉を操作する数理科学的な技法によって、境界例、神経症、うつ等の疾患を、薬を使わずに、数回のセッションで治癒させることが可能であることを示してみたいと思います。
 
 日常的な精神医療に携わっている方には信じられないかもしれませんが、数年間にわたって精神科で数種類の向精神薬を投与されていたクライエントですら、数回のセッションで症状が消失します。この治療技法が操作の対象にしているのは自我、エスではなく〈超自我〉そのものです。
 
 〈超自我〉こそが、症状を形成し、症状を持続させ、そして症状を消失させる鍵を握っています。たとえば身体疾患の場合、身体は自然な治癒を導くメカニズムをもっています。これをベイトソンあるいはプリゴジーヌ的な意味で「自然治癒を導く平衡状態」と呼んでもよいでしょう。言うまでもなく、この平衡状態は精神においても機能しています。ただ、この平衡を投薬によって撹乱し、見かけ上は治癒したかのように見せつつ、不可逆な非平衡状態へと精神を陥れているような治療が後を絶ちません。これは医療という大義名分を掲げた医原性の新たな薬物依存、薬物中毒をつくり出す行為に他なりません。
 
 つい先日、「うつ病」の診断で他の精神科医の治療を受けていた30代男性のクライエントの治療に携わる機会がありました。長い期間にわたってSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が投与されていたので、超自我に働きかける治療を施し、今日から睡眠剤も含めて薬はなにも飲まなくて大丈夫と伝えて一週間後の来院予約を取りセッションを終えました。わたしは常日頃から他院でSSRIが投与されているクライエントには、まれにではあるが衝動的に「この世から消えてしまいたい」「死にたい」という衝動が生じることがあると伝えるようにしており、この男性にもそのことを伝えていました。この男性は一週間後に来院し、わたしに次のように報告してくれました。「先生がおっしゃるように薬を飲まなくても大丈夫でした。夜も普通に眠れました」と。そしてさらに「ずっと死にたいという気持ちが続いていたのですが、薬をやめてからその気持ちはなくなりました」と。
 
 現代の精神科では、医原性の精神疾患が蔓延しているというのが実情でしょう。それは家族や社会の要求に精神科医が従った結果の薬物的拘束かもしれません。しかしながら、かなりの数の精神疾患は然るべき治療を施せば薬なしで治癒するのだということを、精神医療に携わる方々に知っていただきたいのです。たしかに、わたしが発見した治療技法は、すぐに身に付けられるようなものではありません。つまり相応の自己分析的なトレーニングと数理科学的理論の裏付けが必要ですが、ひとたびこの技法を身に付けてしまえば、クライエントは、通常の精神分析のように無意識を掘り返す必要もなく、雑談しているうちに「知らないうちに自然に治ってしまう」のです。
 
 今年の公開セミネールは、この治療技法についてできるだけ具体的にお話しする予定です。とくにコンヴェンショナルな治療に携わっておられる方は、目から鱗が落ちる思いを味わうことになるでしょう。今年はぜひ多くの「現場人」の方々と対話を重ねながら、数十年にわたる様々なわたし経験の結晶でもあるこの治療技法の真髄をお伝えしてゆけたらと思っています。
 
 本年もどうぞよろしくお願いいたします。
 
  

2019年1月1日 藤田博史拝